Jardin d'Apsara Paris

アプサラのタロットカードリーディングとパリの暮らし

自宅を心と体の聖域に

f:id:ApsaraParis777:20201026061544j:plainロックダウンが始まった2020年3月から、私の家での暮らしは劇的に変わりました。

持ち家に住んでいた20代後半から30代を経て、賃貸に移行したのは、これからの人生設計を思い描いたとき、いずれ息子が家から巣立てば、私自身も地理的な自由を得られることを考え、ライフスタイルの変化によっていらなくなるものを持つのはやめようと思ったからです。パリでは資産としての家は確かに価値が落ちることはありませんが、もともと地価の高い地域では、価値の上昇も相対的に少ないですし、設備投資や管理費、不動産税、売買の際に公証人に7パーセントもの手数料を払うこと、それらを考えると、得なのかどうかわからなくなってきたこともありました。

パリ中心部の小さな商店街のちょうど真ん中の交差点、東西と南が窓になっていて、冬の長いパリでは私にとって不可欠の採光が気に入っている今のアパルトマンですが、まず最初に実感したことは、高い家賃を払って住んでいるこの家に、自分は今までほとんどいなかったのだということです!

家で仕事ができるということは、仕事時間と休憩時間にインターバルがないということです。専門店のカフェや、これまでいろいろな国への出張に行くたびにもらって飲みきれず棚に陳列されてきた様々な種類のお茶を、隣のキッチンで淹れて朝から晩まで好きな時に楽しむことができるようになり、職場にいるときにはお茶タイムの同僚とのお付き合いやストレスで我慢することが難しかったスイーツも、豆腐チョコムースをはじめとする低糖の手作りデザートで、糖分を劇的に抑えることができるようになりました。サプリメントに頼らず、食品だけで必要な栄養素を取るためのメニューの組み合わせを毎日考えるのも楽しかったです。ロックダウン中に体重が4キロ近く減ったのはそのおかげです。

もうひとつは、体へのケアができるということです。ロックダウンになってから、徒歩とはいえ20分以上かかっていた通勤時間が無くなり、早朝に運動のためにひたすら歩く日課ができました。そのまま仕事の開始時間前までに開店と同時に人のほとんどいないスーパーや八百屋さんでお買い物するのが、唯一の息抜きでした。家では、オンラインの会議の時に上だけをきちんとした服に変える以外、基本的にはヨガウェアやゆったりとした服で過ごすことができて、これまで毎日取り換える服や高いヒールの靴で体がどれだけ疲れていたかにも気が付きました。自分の注意が外へ全開だったロックダウン前に、私が自分のためにお金を使うところと言えば、職場や出張に来ていく服、化粧品、靴、といったものが中心でした。今は付け心地の良い下着、シルクのパジャマ、きちんと見えるけれど楽に着られる部屋着、そして思い出のあるお茶道具や食器をアンティークで、と、家でしか見たり使ったりしないものにシフトしています。

家で運動をしようとするとヨガをはじめオンラインのメニューが山ほどあり、リビングにヨガマットを置いて朝昼晩と習慣にするようになりました。自宅の窓から見えるほど近くのジムでないと通えないのでそこの会員になっていましたが、これは退会することにしました。

そして毎日朝家のなかを朝日で照らされながら眺めると、これまでは単に家にいないため目に留まっていなかったほこりや汚れがこんなにあるのかとショックでした笑。毎朝、みんなが使うスペースには掃除機をかけ、ほこりとりも頻繁にするようになりました。

最後に、ロックダウンをきっかけに、自分がどれだけ、それほど本質的でない対人関係や外からの刺激に考え方や気分を左右されていたのかに愕然としました。資本主義社会が私たちのわずかな人生の時間を削り取るためにどれだけの趣向を凝らして暇つぶしを提供しているのかに気が付くことができました。インドの賢人・クリシュナムルティは、恋愛も映画も読書も、すべては行き過ぎれば自分との厳しい対話から目をそらそうとする人間のための娯楽であると言っています。私にはそれらのすべてを捨て去る覚悟はまだありませんし、先人や同時代の人々が生み出した偉大な作品をこれからも知っていきたいとは思っています。けれども、それが逃げになっているのかもしれないと、自分に問いかける進歩も、確かに教えてもらったと思います。

家を自分の聖域だと思って、大切にしていきたいと思います。